認知症は予防できるのか―いま分かっていることと、日々できること―
- Dr. Rie Iwaki

- 4月22日
- 読了時間: 4分
前回は、認知症の血液検査や新しい治療についてまとめました。
▶ 前回記事リンク
では、「予防」はどこまでできるのでしょうか。気になる方も多いかと思います。
少し前まで、認知症は「防ぐことが難しいもの」として語られることが多かったように思います。
けれど最近では、考え方が少しずつ変わってきています。
現在、認知症の発症に関わる要因のうち、およそ40%は生活習慣や環境に関連している可能性があると考えられています。
つまり、すべてを防ぐことはできなくても、関わり方によってリスクを下げられる可能性があるということです。
では、具体的にどのようなことが関係しているのでしょうか。
よく知られているものとしては、
・運動不足
・高血圧や糖尿病などの生活習慣病
・喫煙
・過度の飲酒
・難聴
・社会的な孤立
などがあります。
どれも特別なものではなく、日々の暮らしの中にある要素ばかりです。
中でも、最近よく話題になるのが「運動」です。
運動というと、「やらなければ」と思いながらも、なかなか続かないものでもあります。
私自身も、どちらかというと家にいるのが好きなタイプで、一日中外に出ずに過ごすことも苦ではありません。
それでも、少し外に出て体を動かした日は、気分や頭のすっきり感が違うと感じることがあります。
大切なのは、特別なことを始めることよりも、
「少しだけ動く」
「少しだけ外に出る」
といった、小さな積み重ねなのかもしれません。
食事について
食事もまた、認知症との関わりが指摘されている分野の一つです。
特定の食品で予防できる、というよりは、
全体としてバランスのとれた食事が重要とされています。
野菜や果物、魚、オリーブオイルなどを中心とした
いわゆる地中海食に近い食事は、
認知機能との関連が比較的よく研究されています(例:PREDIMED研究など)。
一方で、日本の食事も、
・魚
・大豆製品(豆腐や納豆など)
・野菜
を多く含む点で、共通する部分があります。
こうした食事パターンは、日本の疫学研究(久山町研究など)でも、認知症リスクとの関連が示唆されています。
ただし、「納豆が良い」「この食品を食べれば予防できる」といった
単純なものではなく、
あくまで食事全体のバランスの中で考えることが大切です。
海外で生活していると、
日本のような食事をそのまま続けるのは、なかなか難しいと感じることもあります。
それでも、例えば
「魚を少し多めにしてみる」
「野菜をもう一品足してみる」
といった、小さな工夫でも十分意味があります。
無理に理想の形を目指すのではなく、
今の生活の中でできる範囲で整えていくことが、長く続けるためには大切なのかもしれません。
また、体の状態を整えることも重要です。
血圧や血糖値の管理、睡眠の質、栄養バランスなどは、脳の健康とも関係していることが分かってきています。
特に最近、重要性が改めて注目されているのが「睡眠」です。
睡眠中には、脳の中にたまった老廃物を排出する働きがあることが分かってきており、
アルツハイマー病に関係する物質(アミロイドβ)とも関連が指摘されています。
また、睡眠時間が極端に短い状態や、睡眠の質が低い状態が続くことは、
将来的な認知機能低下と関連する可能性があることも報告されています。
(例:Nature / JAMA などの研究)
日々の生活の中では、
・寝る時間をある程度一定にする
・寝る前のスマートフォンや強い光を控える
・日中に適度に体を動かす
といった基本的なことが、結果的に睡眠の質につながります。
運動や食事と同じように、
「良い睡眠をとろう」と意識すること自体が、
脳の健康を考える上で大切な要素の一つになってきています。
さらに、人とのつながりや会話も大切な要素です。
海外で暮らしていると、言葉や距離の問題で、気づかないうちに人との関わりが少なくなっていることもあります。
そうした環境も、長い目で見ると影響する可能性があります。
また、最近では、帯状疱疹の予防接種と認知症との関連についても研究が進んでいます。
帯状疱疹ワクチンを接種した人では、将来的な認知症のリスクが低かったとする報告もあり(BMJ 2020、Nature Medicine 2023 など)、現在も研究が続けられていますが、現時点では因果関係がはっきりしているわけではありません。
そのため、認知症予防を目的として接種が推奨されているわけではありませんが、感染症予防や健康維持という観点からは、検討する価値のある選択肢の一つといえるかもしれません。
ここまで見てくると、「特別な予防法」というよりは、
日々の生活そのものが、少しずつ積み重なっていくという印象に近いかもしれません。
新しい治療が少しずつ進んでいる一方で、こうした日々の過ごし方の大切さは、これからも変わらない部分です。
すべてを防ぐことはできません。
けれど、何もできないわけでもありません。
無理に何かを変えようとするのではなく、できることを、できる範囲で。
その積み重ねが、これからの時間の過ごし方につながっていくのかもしれません。
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