お酒を飲まないのに脂肪肝?― 甘いものと肝臓の意外な関係 ―
「お酒はほとんど飲まないのに、脂肪肝と言われました」
健康診断の結果を持って来られた患者さんから、時々聞く言葉です。
脂肪肝というと、
「お酒を飲む人の病気」
というイメージがありませんか?
もちろん、アルコールは脂肪肝の大きな原因の一つです。
でも実際には、お酒をほとんど飲まない人にも脂肪肝はあります。
そして、そんな時に私が確認するのは、
体重お腹まわり血圧血糖中性脂肪やコレステロール
そして、
「甘いものや甘い飲み物は、どのくらい摂っていますか?」
ということです。
実は脂肪肝は、肝臓だけの問題ではありません。

今は「MASLD」と呼ばれるようになりました
以前は、お酒をあまり飲まない人の脂肪肝を、
NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)
と呼んでいました。
現在は国際的な名称が変わり、代謝異常と関連する脂肪性肝疾患を、
MASLDMetabolic dysfunction-associated steatotic liver disease代謝機能障害関連脂肪性肝疾患
と呼ぶようになっています。
少し長い名前ですね。
でも、この名称変更には意味があります。
「お酒を飲んでいない」ということだけに注目するのではなく、
肥満、糖尿病、血圧、脂質異常などの代謝異常と深く関係する病気
として考えるようになったのです。欧州のEASL-EASD-EASOガイドラインでも、MASLDは心血管・代謝リスクと一緒に評価することが重視されています。(EASL)
昔は「脂肪肝くらいなら大丈夫」と言われていた?
以前は、
「ちょっと脂肪肝ですね」
「痩せれば大丈夫でしょう」
「肝機能もそれほど悪くないので様子を見ましょう」
という扱いになることも少なくありませんでした。
もちろん、脂肪肝がある人すべてに重い肝臓病が起こるわけではありません。
多くの方では、大きな問題を起こさず経過します。
ただ、現在は「脂肪肝だから軽い」と一括りにはしません。
MASLDの中には、肝臓に炎症が起こるMASHへ進み、さらに一部では線維化、肝硬変、肝細胞癌へ進行する人がいることが分かっています。(EASL)
ですから現在大切なのは、
「脂肪肝があるか、ないか」
だけではなく、
「肝臓に線維化が進んでいないか」
を見ることです。
GOT、GPT、γ-GTが正常なら大丈夫?
これも、とてもよくある誤解です。
日本の健診では、
GOTGPTγ-GTP
という名前に馴染みがあると思います。
オーストリアでは通常、
AST(GOT)ALT(GPT)GGT(γ-GT)
などと表示されています。
これらは肝臓を評価する重要な血液検査ですが、
「肝機能の数字が正常=脂肪肝がない」
とは限りません。
そして、
「ALTが正常=肝臓の線維化がない」
とも限りません。
脂肪肝を指摘された場合には、血液検査だけでなく、年齢、血小板数、AST、ALTなどから計算するFIB-4などを使って、線維化のリスクを評価することがあります。
必要に応じて腹部超音波検査や、肝臓の硬さを調べるエラストグラフィー(FibroScanなど)へ進みます。オーストリアのGesundheitsportalでも、肝線維化・肝硬変の評価にtransiente Elastografieが利用されることが説明されています。(Gesundheitsportal)
つまり、
「脂肪肝がありますね」
で診察を終えるのではなく、
その脂肪肝がどの程度のリスクなのか
を一度考えることが大切になっています。
お酒を飲まないのに、なぜ肝臓に脂肪がたまる?
ここで出てくるのが「代謝」です。
食事から摂ったエネルギーは、身体の中で使われます。
使い切れなかったエネルギーの一部は脂肪として蓄えられます。
そしてその蓄積場所は、お腹や皮下脂肪だけではありません。
肝臓にも脂肪がたまります。
特に、
内臓脂肪インスリン抵抗性糖尿病・予備群中性脂肪の上昇高血圧
などはMASLDと深く関連しています。(EASL)
だから脂肪肝を見つけた時には、私は肝臓だけを見ません。
→ 関連記事:「糖尿病・予備群 ― 症状がなくても知っておきたい血糖の話」
→ 関連記事:「脂質異常症 ― コレステロールの数字、どう見ればいい?」
→ 関連記事:「高血圧 ― 家庭血圧を測っていますか?」
これらは別々の問題のように見えて、身体の中ではつながっています。
甘いものを食べると、本当に脂肪肝になる?
ここは少し丁寧に説明したいところです。
「脂肪肝なら、脂っこいものを食べ過ぎたのでしょう?」
と思うかもしれません。
でも、脂肪肝に関係するのは「脂肪」だけではありません。
糖質も関係します。
特に問題になりやすいのが、
砂糖を多く含む飲み物清涼飲料水ジュースエナジードリンク甘いコーヒーや紅茶
などです。
糖を必要以上に摂取すると、その一部は肝臓で脂肪の合成に利用されます。
特に果糖(フルクトース)を多く含む糖類の過剰摂取と脂肪肝との関連は以前から指摘されています。
ただし、ここで、
「果糖は毒です」
「果物を食べてはいけません」
という話にしてはいけません。
問題になるのは、果物そのものを普通に食べることよりも、砂糖や果糖を含む飲料・加工食品などから大量の糖を摂取することです。
果物には食物繊維があり、噛んで食べるので、甘い飲み物とは摂取の仕方が大きく異なります。
ですから、
「脂肪肝だから果物禁止」
とする必要は通常ありません。
「甘いものが好き」なら、全部やめないといけない?
ここは私が患者さんに一番伝えたいところです。
脂肪肝と言われた翌日から、
ケーキ禁止。チョコレート禁止。アイス禁止。パン禁止。ご飯禁止。
では、なかなか続きません。
そして、私は健康のために食べる楽しみを全部なくしてしまう必要はないと思っています。
大切なのは、
「何を一生禁止するか」
ではなく、
「普段どう付き合うか」。
です。
まず見直したいのは「飲む糖」
甘いものが好きな方でも、私なら最初からケーキを禁止するより、
普段何を飲んでいるか
を確認します。
コーラ。
ジュース。
甘いアイスティー。
エナジードリンク。
シロップ入りのコーヒー。
砂糖入りのカフェラテ。
加糖されたスムージー
こうした飲み物は、あまり満腹感を得ないまま糖を摂取しやすいからです。
毎日の飲み物を、
水炭酸水無糖のお茶砂糖を入れないコーヒー
などに変えるだけでも、習慣としては大きな違いになります。
「ケーキを一生食べない」より、
「毎日なんとなく飲んでいる糖を減らす」。
私はその方が現実的だと思います。
甘いものは「禁止」より「楽しんで食べる」
甘いものを食べるのであれば、
なんとなく毎日口に入れる
より、
今日はこれを食べたいから、楽しんで食べる。
という付き合い方も一つです。
小腹が空くたびにお菓子をつまむ。
仕事をしながらチョコレートを食べ続ける。
甘い飲み物を一日中少しずつ飲む。
こうした「気づかない糖」が積み重なることがあります。
以前、糖尿病の記事でも書きましたが、
食べることは悪いことではありません。
→ 関連記事:「糖尿病・予備群 ― 症状がなくても知っておきたい血糖の話」
ゆっくり食べる。
味わう。
「今、本当に食べたい?」と少し考えてみる。
私は、禁止するよりも、そういう付き合い方の方が長く続くと思っています。
痩せている人なら脂肪肝にならない?
これも違います。
肥満はMASLDの重要なリスクですが、
痩せている=脂肪肝にならない
ではありません。
特に日本人を含むアジア人では、BMIだけでは代謝リスクを十分に表せない場合があります。
体重がそれほど多くなくても、
内臓脂肪が多い中性脂肪が高い血糖が高い血圧が高い
ということがあります。
ですから、
「私は太っていないから関係ない」
とも限りません。
→ 関連記事:「糖尿病・予備群 ― 痩せていても安心とは限らない?」
脂肪肝は、肝臓だけの問題ではない
ここが、現在の脂肪肝診療でとても大切なところです。
MASLDの患者さんでは、
糖尿病高血圧脂質異常症肥満慢性腎臓病
などが重なることがあります。
そしてMASLDでは、肝臓の病気だけではなく心血管疾患にも注意する必要があります。欧州の2024年ガイドラインも、MASLDを心血管・代謝疾患と密接に関連する病態として扱っています。(EASL)
だから、
「脂肪肝だけど、肝臓の数字はそれほど悪くないから大丈夫」
で終わらせない。
血圧はどう?
血糖は?
LDLや中性脂肪は?
腎臓は?
喫煙は?
運動習慣は?
と、身体全体を見ることが大切です。
→ 関連記事:「動脈硬化 ― 血圧・血糖・コレステロールは、別々の問題ではありません」
→ 関連記事:「腎臓は、悪くなっても気づきにくい ― 慢性腎臓病(CKD)を、透析になる前に考える ―」
では、脂肪肝を改善するには?
特別な「肝臓デトックス」をする必要はありません。
基本になるのは、
食生活身体活動体重管理血糖血圧脂質
など、代謝全体を整えることです。
体重が多い方では、体重を減らすことで肝臓の脂肪や炎症が改善することがあります。
ただし、目標は、
「とにかく痩せる」
ではありません。
筋肉を保ちながら、無理なく続けられる生活に変えていくことが大切です。
運動も「肝臓のために」だけでなく
脂肪肝の改善には身体活動も重要です。
でも、
「脂肪肝だから週○分運動してください」
と言われると、それだけで宿題のように感じる方もいると思います。
私は、
「運動しなければ」
だけで考えなくてもよいと思っています。
一駅歩く。
階段を使う。
旅行先で歩く。
友人とカフェで会う代わりに、一緒に散歩してみる。
週末にウィーンを歩いてみる。
それも全部、身体活動です。
→ 関連記事:「ウィーンで歳を重ねるということ ― 歩くことを、楽しみに変えてみる ―」
健康のために人生を楽しむのではなく、
人生を楽しんでいたら、それが健康にもつながっていた。
脂肪肝との付き合い方も、そのくらい長い目で考えてよいのではないでしょうか。
お酒を飲まないなら、アルコールは関係ない?
ここにも少し注意が必要です。
現在のMASLDという考え方では、飲酒量についても確認します。
「脂肪肝の原因は代謝だから、お酒は関係ない」
と完全に切り離して考えるわけではありません。
アルコールと代謝異常が重なれば、肝臓への影響も考える必要があります。
ですから診察では、
「飲む・飲まない」
だけではなく、
何を、どのくらい、どの頻度で飲むのか
を確認します。
この記事のテーマである「ほとんどお酒を飲まないのに脂肪肝」という場合には、むしろ糖代謝、脂質、体重、内臓脂肪、運動習慣などに目を向けてみることが大切です。
脂肪肝と言われたら、一度確認してほしいこと
脂肪肝を指摘された時に、
「お酒を飲まないのに、なぜ?」
で終わらせないでください。
肝臓の数値はどうか。
血小板はどうか。
線維化のリスクは高くないか。
血糖はどうか。
中性脂肪やLDLはどうか。
血圧はどうか。
体重や腹囲は変化していないか。
普段、甘い飲み物を飲んでいないか。
そして、
生活の中で少し変えられることはないか。
脂肪肝は、
「肝臓に脂肪がついています」
という超音波検査の一行だけで終わる話ではなくなっています。
日本とオーストリアでは違う?
医学的な基本は、大きく違いません。
欧州ではEASL・EASD・EASOが2024年にMASLDの診療ガイドラインを発表し、日本でも2026年4月に日本肝臓学会・日本消化器病学会によるMASLD診療ガイドライン2026が公表されています。(EASL)
つまり、日本でもオーストリアでも、
「脂肪肝=お酒の問題」
だけではありません。
現在は、
肝臓の脂肪代謝異常肝線維化糖尿病心血管リスク
などを総合的に考える方向になっています。
オーストリアのGesundheitsportalでも、2型糖尿病、肥満、不健康な食生活などがMASLDと関連し、一部ではMASHから肝硬変へ進行し得ることが説明されています。(Gesundheitsportal)
「脂肪肝ですね」と言われても、怖がりすぎないで
ここまで読むと、
「脂肪肝って、そんなに怖い病気だったの?」
と思われるかもしれません。
でも、怖がるための記事ではありません。
脂肪肝が見つかったということは、
身体から少し早めに届いたメッセージ
と考えてみてもよいと思います。
まだ症状がない。
まだ普通に生活できている。
だからこそ、
今のうちに血圧や血糖を確認してみる。
甘い飲み物を少し減らしてみる。
身体を少し動かしてみる。
必要なら肝臓の線維化リスクを調べてみる。
できることがあります。
ウィーンで歳を重ねるということ
ケーキも食べたい。
カフェにも行きたい。
旅行先では、その土地のおいしいものも食べたい。
私も、それを全部やめてまで健康になりたいとは思いません。
健康は、我慢するための目的ではなく、
これからも好きなことを楽しむための土台
だと思っています。
毎日の甘い飲み物を水にしてみる。
甘いものを食べるなら、なんとなくではなく楽しんで食べる。
友人と会う日は、カフェの前に少し歩いてみる。
旅行ではたくさん歩く。
そんな小さなことでも構いません。
脂肪肝との付き合い方も、
「もう食べてはいけないもの」を増やすのではなく、
これからも楽しんで食べ、動き、歳を重ねていくために、今の生活を少し見直してみる。
そんなきっかけにしていただければと思います。
参考情報
この記事は2026年9月時点の医学情報に基づいています。欧州ではEASL-EASD-EASO Clinical Practice Guidelines 2024、日本では2026年4月公表の「MASLD診療ガイドライン2026(改訂第3版)」が現在の主要な指針です。(EASL)




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