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【連載】ウィーンで歳を重ねるということ②それは「年のせい」だけではないかもしれない

―もの忘れと、認知症のあいだ―


「最近ちょっと忘れっぽくて」

「でも、年のせいですよね」


日常でもよく聞く言葉です。


どこか安心したい気持ちと、少しだけ気になっている気持ちが、その一言に混ざっているように感じます。



もの忘れは、年齢とともに誰にでも起こりうる変化です。

名前がすぐに出てこない、さっき何をしようとしていたか忘れる。

そうしたことは、日常の中でもよくあることです。


一方で、認知症は、記憶だけでなく、

判断力や段取り、

言葉の理解、

そして日々の生活の機能に影響が出てくる状態を指します。


たとえば、約束や支払いを繰り返し忘れる、慣れた場所で迷う、薬の管理や料理、買い物が以前より難しくなる。


身近な人から「少し変わった」と言われる。


そうした変化が続くときには、「年のせい」とだけ片づけずに、一度相談してみることが大切です。



大切なのは、年齢に伴うもの忘れと認知症が、いつもはっきり分かれているわけではない、ということです。


実際には、その間にグラデーションのような状態があり、「軽度認知障害(MCI)」と呼ばれる段階が存在します。


MCIとは、以前に比べて記憶力や考える力の低下が目立つものの、日常生活は大きくは損なわれていない状態を指します。ただし、MCIと診断された人が、必ず認知症へ進むわけではありません。変化がゆっくり続く人もいれば、しばらく安定している人、原因によっては改善する人もいます。



この段階に気づくことには、意味があります。

すぐに何か大きな治療をしなければならない、ということではありません。

けれど、早い段階で気づくことで、生活を整えたり、原因を調べたり、これからの選択肢を広げたりできる可能性があります。


たとえば、もの忘れの背景に、

睡眠の問題、

強いストレス、

うつ状態、

薬の影響、

アルコール、

甲状腺の病気、

ビタミンB12の不足、

睡眠時無呼吸、

聴こえにくさ、

あるいは身体的な不調が隠れていることもあります。

それらを見直すことで、集中力や記憶の困りごとが軽くなることもあります。



さらに現在では、医療の面でも少しずつ変化が見られています。

アルツハイマー病のごく早い段階、すなわちアルツハイマー病によるMCIや軽度認知症で、アミロイドβの蓄積など、原因となる変化が確認されている場合には、レカネマブ(Leqembi®・レケンビ®)や ドナネマブ(Kisunla®・ケサンラ®)といった点滴による治療が、進行を一定程度遅らせる目的で検討されることがあります。



ただし、これらは認知症を「治す」薬ではありません。また、誰にでも使える治療でもありません。治療の対象となるかどうかは、診断、病期、検査結果、持病、服用中の薬、脳出血などのリスク、ApoE4という遺伝的要素などを含めて、専門的な評価のもとで慎重に判断されます。

治療中も、脳のむくみや微小出血などを確認するために、MRI検査を含む継続的な管理が必要になります。



一方で、これまで広く用いられてきた治療として、ドネペジル(Aricept®・アリセプト®)などのコリンエステラーゼ阻害薬や、病気の段階によっては メマンチン(Ebixa®・Axura®・メマリー®)などの内服薬があります。


これらは主に、症状を和らげたり、日常生活の機能をできるだけ保つことを助けたりする目的で使われる薬です。


MCIそのものに対して、誰にでも使われる標準治療というわけではなく、診断名や病気の進み具合、副作用のリスクを含めて、医師が個別に判断します。



だからこそ、「早い段階で気づくこと」には、以前とは少し違う意味が生まれてきています。


それは、すぐに治療を始めるためだけではありません。


何が原因なのかを確かめること。


生活の中で整えられることを見つけること。


必要な支援や医療につながること。


そして、自分らしいこれからの過ごし方を考える時間を持つこと。


そのための第一歩でもあります。



「知ると不安になるのではないか」そう感じる方もたくさんいらっしゃいます。


確かに、知らないままでいる方が楽に感じることもあります。



けれど、「年のせい」とひとことで片づけてしまう前に、

ほんの少しだけ立ち止まってみる。

それだけでも、見え方が変わることがあります。



海外で暮らしていると、体調の変化や不安を、自分の中で抱え込んでしまうこともあるかもしれません。


言葉のこと、医療制度のこと、距離のこと。


日本にいる家族には話しにくい、

現地の医療機関には相談しづらい、

そんな気持ちになることもあるかもしれません。


だからこそ、「気づいたときに誰かに相談できる」ということは、

思っている以上に大切なことのように感じます。


かかりつけ医、専門外来、身近な家族や友人、信頼できる相談先。


ひとりで抱え込まないことも、これからの暮らしを守るための大事な選択です。


もの忘れは、すぐに何かを意味するものではありません。


けれど、まったく無関係でもありません。


そのあいだにある小さな変化に気づくことが、これからの時間の過ごし方につながっていくのかもしれません。

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