【連載】ウィーンで歳を重ねるということ⑤ ―筋肉は何歳からでも大切―
「運動していますか?」
診察でそう聞くことがあります。
でも、聞きながらいつも思います。
私自身、放っておいたらかなりの家っこです。
家にいるのが好きですし、何も予定がなければ、「今日は運動しよう!」と一人で外へ飛び出していくタイプでもありません。
なので、自分で運動を続けてらっしゃる方には頭が下がります。
それでも少しでも身体を動かすことが続いているのは、意志が強いからではなく、自分一人のやる気に頼らない仕組みを作っているからだと思います。

筋肉は、歳を重ねてからこそ大切になります
筋肉というと、
「若い人が鍛えるもの」
「スポーツをする人のもの」
というイメージがあるかもしれません。
でも医学的には、歳を重ねるほど筋肉を維持する意味は大きくなります。
筋肉量や筋力は加齢とともに低下しやすく、進行するとサルコペニアと呼ばれる状態につながります。
大切なのは、見た目の筋肉ではありません。
立ち上がる。
歩く。
階段を上る。
買い物に行く。
旅行する。
転びそうになった時に踏ん張る。
こうした日常生活を支えているのが筋肉です。
さらに筋肉は、身体を動かすためだけの組織でもありません。運動によって筋肉を使うことは、糖代謝や心血管系、骨の健康などにも関係します。
つまり筋肉を保つことは、
これからも自分の足で、自分の行きたいところへ行くための準備
でもあります。
私も、一人だったら続いていないと思います
私の趣味は社交ダンスです。
長く続けていますが、これも私一人だったら、ここまで続いていたかはかなり怪しいです。
練習する日が決まっていて、パートナーがいる。
「今日はちょっと面倒だからやめておこう」
と思っても、相手に連れられて行く。
行ってしまえば、結局楽しい。
モチベーションがあるから続くのではなく、続けられる環境があるから続く。
これは運動を習慣にするうえで、とても大切なことだと思っています。
カフェで会う代わりに、歩きながら話してみる
最近は友人との時間にも、少し変化がありました。
以前なら、
「お茶しよう」
「ランチしよう」
とカフェやレストランで会っていたところを、
「一緒に歩かない?」
に変えてみることがあります。
以前ご紹介したStadtwanderwegに続いて、先日は友人とrundumadum-Wanderwegにも行ってみました。
ウィーンをぐるりと囲む約120kmの道ですが、24の区間に分かれているので、一度に全部歩く必要はありません。
そして実際にやってみると、これがなかなか良いのです。
自然の中を歩きながらだと、不思議と話も弾みます。
向かい合ってお茶を飲むのとはまた違って、同じ方向を見ながら歩いていると、次から次へと話が出てきます。
そして気がつけば結構歩いている。
友人に会うことと、身体を動かすことを別々の予定にしなくてもいい。
これも一つの方法だと思います。
「やる気」より、約束を利用する
一人ではなかなか続かないなら、人との約束を利用してしまうのも一つです。
友人と、
「来週も歩こう」
と約束する。
スポーツのレッスンを予約する。
必要なら、パーソナルトレーナーとの予約を入れる。
予約してしまえば、
「今日はやる気があるかな?」
と毎回自分に問いかけなくて済みます。
これは怠けているのではなく、むしろ習慣化のために環境を利用するということだと思います。
私自身も、運動を「強い意志で続けている」というより、こうした仕組みにかなり助けてもらっています。
旅行では歩けるのに、普段は歩けない?
これも面白いところです。
普段、
「毎日たくさん歩きましょう」
と言われると、途端に宿題のように感じます。
ところが旅行に行くと、一日中歩いていることがあります。
知らない街を見たい。
あのお店にも行きたい。
もう少し先に何かありそう。
そうしているうちに、いつの間にかかなりの距離を歩いています。
それも立派な運動です。
そして、せっかくウィーンに住んでいるのですから、時々、自分が旅行者になったつもりで街を歩いてみるのもいいと思います。
普段通らない道を歩く。
知らない公園に入ってみる。
一駅手前で降りてみる。
「運動のために歩く」のではなく、
「ウィーンを旅行するつもりで歩く」。
そうすると、少しハードルが下がります。
筋トレも「30分やらなければ」と考えなくていい
筋肉を維持するためには、歩くだけでなく、筋肉に負荷をかける運動、いわゆる筋力トレーニングも大切です。
でも、ここでも私は、
「さあ、今日から週○回、30分筋トレ!」
と考えなくてもいいと思っています。
たとえば、
お風呂がたまるのを待っている間にスクワットをしてみる。
歯を磨きながら、ふくらはぎを伸ばしてみる。
エレベーターではなく階段を使ってみる。
ふと気づいた時に、お腹に少し力を入れて姿勢を整えてみる。
小さなことでも、何もしないより身体を動かすきっかけになります。
ただし、ここは医学的には少し区別が必要です。
お腹に力を入れることやストレッチだけで、十分な筋力トレーニングになるわけではありません。
筋力を維持・改善するには、スクワットなどのように筋肉にある程度の負荷をかける運動を定期的に行うことが大切です。
でも、その「ちゃんとした運動」につながる入口として、日常生活の小さな動きを増やすことには意味があります。
「座りっぱなし」を少し減らしてみる
仕事をしていると、気がつけば何時間も座っていることがあります。
そこで、可能であれば自宅やオフィスの机を立っても使えるものにしてみるのも一つです。
ずっと立ち続ける必要はありません。
座る。
少し立つ。
また座る。
時々歩く。
大切なのは、
「運動する時間」だけで身体活動を考えないこと。
一日の中で座りっぱなしの時間を少しずつ減らし、身体を動かす機会を増やしていくことです。
「運動する時間がない」なら、生活の中にくっつけてみる
新しい習慣を一つ増やすのは大変です。
だったら、すでに毎日やっていることにくっつけてしまう。
歯磨き+ストレッチ。
お風呂+スクワット。
友人とのおしゃべり+散歩。
旅行+ウォーキング。
仕事+時々立つ。
こうすると、
「今日は運動できなかった」
という日が少し減っていきます。
もちろん、本格的な筋力トレーニングや有酸素運動をする時間を作れるなら、それもとても良いことです。
でも、健康は、
「運動した日」と「何もしなかった日」の二択ではありません。
日常生活の中で少しでも動く。
それを繰り返す。
その積み重ねも大切です。
何歳から始めても、遅すぎることはありません
「もうこの歳だから、今さら筋トレしても……」
と思う方もいるかもしれません。
でも、これはぜひお伝えしたいことです。
高齢になってからでも、適切な筋力トレーニングによって筋力や身体機能を改善することは可能です。
もちろん、若い頃とまったく同じ身体になるという意味ではありません。
持病、関節の状態、体力、転倒リスクなどに合わせて、運動の種類や強度を調整する必要もあります。
それでも、
「もう遅いから、やっても意味がない」
ということではありません。
今が、一番若い
私は家っこです。
一人だったら家にいる方を選んでしまいます。
それでも、ダンスならパートナーに連れられて出かける。
友人と約束すれば歩きに行く。
バス停まで早歩きしてみる。
そして日常では、お風呂を待ちながら、歯磨きをしながらスクワットしてみる。仕事の合間にストレッチしてみる。
そんなふうに、自分の性格を無理に変えなくても、身体を動かす方法は作れるのだと思います。
「運動好きな人にならなければ」
と思わなくてもいい。
自分が続けやすい仕組みを見つければいいのです。
そして、
「もっと若い時からやっておけばよかった」
と思う日があったとしても。
今日の自分は、これからの人生の中で一番若い。
だから、始めるなら今日でもいい。
大きなことを始めなくてもいい。
少し歩く。
一度立ち上がる。
スクワットを何回かしてみる。
友人に、
「今度、お茶じゃなくて一緒に歩かない?」
と連絡してみる。
歳を重ねることを怖がるために身体を鍛えるのではなく、
これからも行きたいところへ行き、やりたいことを楽しむために、筋肉を使っていく。
そんなふうに考えてみるのもいいのではないでしょうか。




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