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胸が痛い。どこを受診すればいい?― ウィーンで迷わないための、胸痛の受診ガイド ―

5 日前
読了時間: 10分

「胸が痛いのですが、診てもらえますか?」

診療所にも、ときどきこのようなお問い合わせがあります。


胸の痛みといっても、原因はさまざまです。

筋肉や肋骨からくる痛みもあれば、胃や食道、肺、精神的な緊張などが関係することもあります。

でも、その中には心筋梗塞、肺塞栓症、大動脈解離など、急いで対応しなければならない病気も含まれます。


そして困るのが、

「どのくらい痛かったら救急車?」「とりあえず家庭医でいい?」「救急外来に自分で行けばいい?」「1450って、こういう時にも電話していいの?」

という判断です。


今回は病気の詳しい説明よりも、

「胸が痛くなった時、オーストリアではどう行動すればよいか」

を中心にお話しします。



まず最初に:こんな胸痛なら144


突然の強い胸痛や圧迫感がある場合は、家庭医の予約を取って待つのではなく、救急対応が必要です。


特に、

・胸を強く締め付けられる、押されるような痛み

・圧迫感

・痛みが数分以上続く、または繰り返す

・安静にしても改善しない

・胸から腕、肩、背中、首、顎、上腹部などへ痛みが広がる

・息苦しさがある・冷汗、吐き気、嘔吐、めまいなどを伴う

・突然これまで経験したことのない強い胸痛が起きた

・意識を失う、あるいは意識がおかしい

といった場合には、心筋梗塞など緊急性の高い病気を考える必要があります。


オーストリアの公的Gesundheitsportalも、心筋梗塞が疑われる胸痛では直ちに144へ連絡するよう案内しています。 (Gesundheitsportal)


Rettung(救急):144



オーストリア国内では市外局番なしで144です。


「救急車を呼ぶほどか分からないから、とりあえず診療所に電話してみよう」

ではなく、明らかな警告症状がある場合は最初から144で構いません。



「自分で救急外来に行けばいい」は?


ここも大切です。


心筋梗塞などが疑われるような急性の胸痛の場合には、

「家族に車で送ってもらう」

「タクシーで病院へ行く」

「自分で運転して行く」

より、144に連絡してください。


救急搬送であれば、搬送中にも状態を観察し、必要な処置を行いながら適切な医療機関につなぐことができます。


特に自分で車を運転することは避けてください。


胸痛の原因が心臓とは限りませんが、緊急時には「何の病気かを自分で当てる」ことより、「危険な病気を見逃さない」ことの方が大切です。


ウィーンでは、心筋梗塞のための救急システムがあります


「救急車を呼ぶより、自分で病院へ行った方が早いのでは?」

と思う方もいるかもしれません。


でも、ウィーンでは急性心筋梗塞に対して、心臓カテーテル治療ができる病院が連携する「Herzinfarkt-Netzwerk」が整備されています。


救急現場では必要に応じて心電図をとり、心筋梗塞、特に緊急のカテーテル治療が必要なタイプと判断されれば、その日にカテーテル治療を担当している病院へ直接搬送されます。病院側も交代で急性心筋梗塞を受け入れる体制をとっています。


つまり、患者さん自身が

「今日はどこの病院へ行けばいいの?」

と調べる必要はありません。


この仕組みがあるからこそ、心筋梗塞が疑われるような胸痛では、自分で病院を探して向かうのではなく、144に連絡することが大切です。



女性では「典型的な胸痛」ではないことも


心筋梗塞というと、

「胸を押さえて倒れる」

というイメージが強いかもしれません。


しかし、必ずしもそうとは限りません。


特に女性では、顎の痛み、息苦しさ、吐き気など、典型的な強い胸痛とは異なる症状がみられることがあります。オーストリアの公的Gesundheitsportalでも、この点が注意喚起されています。 (Gesundheitsportal)


また、高齢者や糖尿病のある方などでも症状が典型的でない場合があります。


「胸がものすごく痛くないから心臓ではない」

と自己判断しないことが大切です。




では、1450はいつ使う?


オーストリアに来たばかりの方には、ぜひ知っておいていただきたい番号です。


Gesundheitsberatung(健康相談):1450

1450は24時間利用できるオーストリアの健康相談窓口です。


専門のスタッフが症状について質問し、

「家庭医を受診した方がよい」「救急外来で診てもらった方がよい」「どこを受診すればよい」

といった次の行動を案内してくれます。ウィーン市も、1450を急な症状について緊急度を評価し、適切な医療機関へ案内する窓口として位置づけています。 (Deutsch)


たとえば、

「胸に違和感があるけれど、救急なのか分からない」「症状は軽いけれど、今日診てもらうべき?」「夜なので家庭医が開いていない」「どこの医療機関に行けばいいか分からない」

といった場合には、1450が役立ちます。

ただし、重要なことがあります。


明らかな緊急症状がある時に、1450を経由する必要はありません。

強い胸痛、呼吸困難、意識障害など、明らかな救急症状がある場合は1450ではなく144です。ウィーン市も「Notfall(緊急時)」は144と明確に区別しています。 (Deutsch)



家庭医でよい胸痛は?


一方、すべての胸痛に救急車が必要なわけではありません。

たとえば、

以前から時々ある軽い症状で、現在は落ち着いている。身体を動かした時だけ特定の場所が痛む。姿勢や身体の動きによって痛みが変わる。胸の表面を押すと同じ痛みが再現される。


こうした場合には、筋肉や胸郭などが原因であることも多く、全身状態が安定していて警告症状がなければ、家庭医で評価できる場合があります。


家庭医では、症状がいつからあるのか、運動との関係、痛みの性質、持続時間、既往歴などを確認し、血圧、脈拍、SpO₂、心肺の診察などを行います。


必要に応じて心電図を行ったり、循環器内科などへ紹介したりします。


ただし、

「押したら痛いから絶対に心臓ではない」「若いから心筋梗塞ではない」

という自己判断はしないでください。


症状やリスクによっては、家庭医からそのまま救急外来での精査をお願いすることもあります。



家庭医ではできない検査もあります


ここも、診療所を受診する前に知っておいていただきたいところです。


胸痛の評価では、心電図だけで診断できるとは限りません。

急性冠症候群が疑われる場合には、繰り返しの心電図、トロポニンなどの血液検査、必要に応じた画像検査や経過観察が必要になります。


肺塞栓症や大動脈疾患などが疑われれば、さらに別の検査が必要です。

一般の家庭医診療所には、病院の救急外来と同じ検査設備はありません。


そのため家庭医を受診した結果、

「ここで様子を見るより、病院で検査しましょう」

と救急外来を紹介することがあります。


これは「家庭医では診断できなかった」ということではなく、

危険な病気を安全に除外するために必要な検査ができる場所へつなぐ

という家庭医の重要な役割の一つです。



「心臓が悪いかどうか」は、痛みの強さだけでは決まりません


心筋梗塞や狭心症の可能性を考える時には、症状だけでなく、その人がもともと持っている心血管リスクも重要です。

高血圧。

糖尿病。

脂質異常症。

喫煙。

慢性腎臓病。

年齢や家族歴。

すでに心筋梗塞や脳梗塞などを経験しているか。

同じ「胸が少し痛い」でも、背景によって意味は変わります。


→ 関連記事:「動脈硬化 ― 血圧・血糖・コレステロールは、別々の問題ではありません」

→ 関連記事:「腎臓は、悪くなっても気づきにくい ― 慢性腎臓病(CKD)を、透析になる前に考える ―」


これらを一つひとつ別々の病気として見るのではなく、心臓や血管全体のリスクとして考えることが大切です。



胸痛=心臓、とは限りません


ここまで心臓の話をすると、

「胸が痛かったら、全部心臓なの?」

と思うかもしれません。

もちろん、そうではありません。

胸には心臓だけでなく、肺、食道、筋肉、肋骨、神経などがあります。

たとえば、

筋肉・肋骨・胸郭からの痛み胃食道逆流症など消化管からの症状呼吸器疾患帯状疱疹不安やパニック発作

などでも、胸の痛みや圧迫感を感じることがあります。


ただし、

「ストレスがあるから心因性」

「胃が弱いから逆流性食道炎」

「昨日運動したから筋肉痛」

と最初から決めつけることは避けたいところです。


特に初めて経験する胸痛では、まず危険な原因がないかを考えることが大切です。



141という番号もあります


もう一つ、オーストリアには141という番号があります。


Ärztefunkdienst/Ärztenotdienst:141

通常の家庭医が診療していない夜間、週末、祝日などに医師の診療が必要な場合の医療サービスです。オーストリアのGesundheitsportalでは、通常、夜間19時~7時、週末は金曜19時~月曜7時、祝日は終日利用できるサービスとして案内されていますが、詳細は州によって異なります。 (Gesundheitsportal)


ただし、これも144の代わりではありません。

急性の強い胸痛や呼吸困難など、救急疾患が疑われる場合は144です。



迷った時の目安


ウィーンで胸が痛くなった時は、私は次のように考えていただくと分かりやすいと思います。

状況

まずどうする?

強い・突然の胸痛、強い圧迫感、息苦しさ、冷汗、意識がおかしいなど

144

心筋梗塞などが疑われる急性胸痛

144

緊急性があるか自分では判断できない

1450

軽い症状で全身状態は安定、緊急性を示す症状なし

家庭医

家庭医の診療時間外で、緊急ではないが医師の診察が必要

1450/141

家庭医で診察後、病院での検査が必要と判断された

救急外来等へ紹介


そして一番大切なのは、

「救急車を呼んで、たいしたことがなかったら恥ずかしい」

と考えないことです。


心筋梗塞では治療開始までの時間が重要です。オーストリアの公的医療情報でも、疑わしい場合には速やかに144へ連絡するよう案内されています。 (Gesundheitsportal)



日本とオーストリア、何が違う?


胸痛の医学的な考え方そのものが、日本とオーストリアで大きく違うわけではありません。


違いを感じやすいのは、医療機関へのアクセス方法です。


日本では、

「救急車を呼ぶべきか」「近くの救急病院へ行くべきか」「かかりつけ医に相談するか」


で迷うことがあると思います。


オーストリアでは、そこに1450という選択肢があります。


1450は24時間、症状に応じて「次にどこへ行けばよいか」を案内する窓口です。ウィーンでは居住地や診療所の開院時間なども考慮して案内されます。 (Deutsch)


ですから、ウィーンで生活している方には、

144 = 救急

1450 = 迷った時の健康相談・受診先案内

141 = 主に夜間・週末の医師サービス家庭医 = 緊急性のない症状の最初の相談先

と覚えておくと便利です。



「胸が痛い」と思った時に覚えておいてほしいこと


胸痛の記事を書くと、どうしても、

「この痛みなら心臓」「この痛みなら筋肉」

という見分け方を知りたくなると思います。


でも、実際の診療はそれほど単純ではありません。


年齢、症状、発症の仕方、持続時間、運動との関係、呼吸との関係、既往歴、服薬、心血管リスク、診察所見、心電図、血液検査などを組み合わせて判断します。


だから、このブログを読んで胸痛の原因を自分で診断する必要はありません。


知っておいていただきたいのは、もっとシンプルなことです。


突然の強い胸痛や、息苦しさ・冷汗などを伴う胸痛なら144。

救急なのか判断に迷ったら1450。

緊急性のない胸痛なら家庭医。


そして、

「少し様子を見ればいいかな」

と思っている間にも、症状が強くなる、長く続く、新たに息苦しさや冷汗、めまいなどが加わった場合には、受診先を一段階上げて考えてください。


胸痛では、

原因を自分で当てることより、危険な病気を見逃さないこと。

それを一番に覚えておいていただければと思います。



ウィーンで覚えておきたい番号

救急(Rettung):144欧州共通緊急番号:112健康相談・受診先案内:1450Ärztefunkdienst/Ärztenotdienst:141

オーストリアの公的Gesundheitsportalでは、急性の強い胸痛は144へ連絡すべき救急症状として明確に扱われています。 (Gesundheitsportal)



参考情報

この記事は2026年9月時点のオーストリアの公的医療情報に基づいています。胸痛の原因や緊急度は個々の状況によって異なるため、この記事は個別の診断を目的としたものではありません。



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