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【連載】ウィーンで歳を重ねるということ①|―もの忘れと、これからの医療の話―

ウィーンで診療をしていると、

ふとした会話の中でこんな言葉を耳にすることがあります。


「最近、ちょっと忘れっぽくて」

「年のせいだと思うんですけどね」


どこか少し笑いながら、でもほんの少しだけ不安そうに。


もの忘れは、誰にとっても身近な変化です。


そしてそれは、日本にいても、ウィーンにいても、変わることはありません。


けれど海外で暮らしていると、その意味合いは少しだけ違って感じられることがあります。


言葉のこと。

医療のこと。

家族との距離。


「もし本当に困ったとき、自分はここでやっていけるだろうか」

そんな思いが、ふとよぎることもあるかもしれません。


少し前まで、認知症という言葉は、

どこか「どうすることもできないもの」として語られることが多かったように思います。


けれど最近では、その捉え方が少しずつ変わってきています。


生活習慣や社会的なつながり、

そして体の状態を整えることが、

将来の認知機能にも関わっている可能性がある、ということが分かってきました。


すべてを防げるわけではありませんが、

「何もできないわけではない」という感覚は、

以前よりも確かに広がってきています。


そしてもう一つ、大きな変化があります。

アルツハイマー病に対する治療も、

ゆっくりではありますが、新しい段階に入りつつあります。


ウイーンでも日本でも、病気の進行に関わる物質に働きかける

点滴による新しい治療が話題に上るようになってきました。


まだ限られた条件の中で、慎重に使われている段階ではありますが、

「進行を遅らせる」という考え方が、

少しずつ現実のものとして語られ始めています。


もちろん、こうした医療がすぐにすべてを変えるわけではありません。

けれど、

「これからは少し違うかもしれない」

と思えることは、大きな意味を持つように感じます。


ウィーンで歳を重ねていくということは、

不安と無縁ではありません。


それでも、日々の暮らしの中でできることや、

少しずつ進んでいる医療の変化を知ることで、

見え方が少し変わることもあります。


もの忘れは、特別な誰かの話ではなく、

私たち一人ひとりの延長線上にあるものです。


だからこそ、遠ざけるのではなく、

少しだけ近くから、静かに見つめてみる。


そんな視点もあってよいのかもしれません。


日々の中で気になる変化があっても、 「どこまでが自然なものなのか」 「どこから考えた方がよいのか」 迷うこともあるかもしれません。


そうしたときに、 母国語でゆっくりと整理してみることで、 見え方が少し変わることもあります。


無理のない範囲で、 立ち止まって考えてみる時間を持つことも、 一つの選択肢かもしれません。

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