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歩くことと、こころの健康

―「少しだけ動く」ことの意味―


「運動した方がいいのは分かっているんですが…」

診察室でよく聞く言葉です。


分かってはいるけれど、なかなか続かない。

忙しさや疲れの中で、後回しになってしまう。

とても自然なことだと思います。


実は私自身も、どちらかというと“家っ子”で、きっかけがなければ一日中家にこもっていられるタイプです。

誰かに誘われたり、予定があったりしないと、そのまま外に出ないまま一日が終わってしまうこともあります。


だからこそ、「運動の大切さ」と「実際の難しさ」の間にある距離は、日々感じています。



そんな中で、興味深い研究結果が報告されています。


1日の歩数と、うつ症状との関連を調べた研究では、歩数が増えるほど、うつのリスクが低下する可能性が示されました。



特に、

・1日あたり1,000歩増えるごとに、リスクが少しずつ低下・7,000歩以上歩いている人は、7,000歩未満の人と比べて 約30%程度、うつのリスクが低かった

と報告されています(JAMA Network Open, 2023)。



もちろん、これは「歩けば必ずうつにならない」という話ではありません。

体調や環境、ストレスなど、さまざまな要因が関わります。


けれど少なくとも、日々のちょっとした身体活動が、こころの状態にも影響している可能性があるということが、少しずつ分かってきています。



ここで大切なのは、「どれくらい運動するか」よりも、「少しでも動くこと」なのかもしれません。



7,000歩と聞くと、多く感じるかもしれませんが、

一駅分歩く・少し遠回りして帰る・買い物に歩いて行く

そんな日常の中の動きでも、少しずつ積み重なっていきます。


「まとまった運動をしなければ」と思うと、どうしてもハードルが上がってしまいます。

けれど、「あと1,000歩だけ増やしてみる」と考えると、少し現実的になるかもしれません。



ウィーンでの生活は、街を歩くことが比較的しやすい環境でもあります。

公園や緑が多く、少し外に出るだけで空気が変わるのを感じることもあります。

そうした環境を、無理のない範囲で利用してみるのも一つの方法です。


運動は、「やらなければならないもの」として考えると、少し苦しくなってしまいます。

けれど、気分を少し整えるための手段のひとつとして捉えてみると、見え方が変わることもあります。


「今日は少しだけ外に出てみる」

それくらいの小さな一歩でも、十分に意味があるのかもしれません。


完璧である必要はありません。

続かない日があってもいい。

それでもまた、少しだけ動いてみる。

その積み重ねが、こころと体の両方に、静かに影響していくのかもしれません。



※参考身体活動量と抑うつリスクに関するシステマティックレビュー(JAMA Network Open 2023)


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