PMS(月経前症候群)とは?―「生理前だから仕方ない」だけではないかもしれません―
- Dr. Rie Iwaki

- 6月27日
- 読了時間: 7分
「生理前になるとイライラする」
「気分が落ち込む」
「家族にきつく当たってしまう」
「甘いものが止まらない」
そんな経験はありませんか。
診療をしていると、
「昔からだから仕方ないと思っていました」
というお話を聞くことがあります。
一方で、
「年齢とともに症状が強くなった気がする」
「更年期なのかPMSなのか分からない」
と相談される方も少なくありません。
PMS(月経前症候群)は決して珍しいものではありません。
日本では、月経のある女性の多くが何らかの月経前症状を経験するといわれています。
しかし、つらい症状があっても「我慢するしかない」と考えている方が少なくないように感じます。
今回はPMSについて、現在分かっていることをまとめてみたいと思います。
PMSとは?
PMS(Premenstrual Syndrome:月経前症候群)とは、
排卵後から月経前にかけて現れ、月経開始後数日以内に改善する心身の症状を指します。
典型的には、月経後しばらくすると症状が軽くなったり消失したりします。
代表的な症状として、
こころの症状
イライラ
怒りっぽくなる
気分の落ち込み
不安
涙もろくなる
集中力の低下
からだの症状
乳房の張り
むくみ
頭痛
腹痛
腰痛
疲れやすさ
食欲の変化
睡眠の変化
などがあります。
症状の現れ方は人によって大きく異なります。
PMSの原因は?
実は、原因はまだ完全には解明されていません。
現在では、
「女性ホルモンが多すぎるから起こる」
というよりも、
排卵後のエストロゲンやプロゲステロンの正常な変動に対して、脳がどのように反応するかが関係していると考えられています。
脳内の神経伝達物質である
セロトニン
GABA
アロプレグナノロン(プロゲステロン代謝産物)
などの関与が有力視されています。
そのため、
「気の持ちよう」
「性格の問題」
ではありません。
また、ストレスや睡眠不足などによって症状が強くなることもあります。
PMSと更年期の違い
外来でもよく聞かれる質問です。
PMSは、
生理前に悪化する
生理開始後に改善する
毎月ある程度決まったタイミングで繰り返す
という特徴があります。
一方、更年期では、
月経周期そのものが不規則になる
ほてり(ホットフラッシュ)
発汗
不眠
などがみられることがあります。
ただし、40代以降ではPMSと更年期症状が重なって見えることも珍しくありません。
症状だけで完全に区別できるとは限らず、月経周期の変化や年齢も含めて考えることが大切です。
PMSだけではない?PMDDと月経困難症
月経に関連するつらさには、PMS以外にもいくつかの病態があります。
PMDD(月経前不快気分障害)
PMDD(Premenstrual Dysphoric Disorder)は、PMSと関連するものの、現在の診断基準でも独立した病気として位置づけられている病態です。
主に精神症状が前景に立ち、
強い抑うつ気分
激しいイライラ
強い不安
感情のコントロールが難しい
人間関係や仕事への大きな支障
などがみられます。
「生理前になると別人のようになってしまう」
「仕事や家庭生活に大きく影響している」
という場合には、PMDDの可能性も考えられます。
月経困難症
一方、月経困難症は、月経時を中心とした痛みや体調不良が主体となる病態です。
代表的な症状として、
強い下腹部痛
腰痛
吐き気
頭痛
下痢
などがあります。
典型的には月経中の症状ですが、月経開始の1〜3日前から始まることもあります。
背景に病気が隠れていることも
月経困難症の背景には、
子宮内膜症
子宮腺筋症
子宮筋腫
などの婦人科疾患が隠れていることがあります。
特に、
年々痛みが強くなる
鎮痛薬が効きにくい
学校や仕事を休むほどつらい
という場合には、一度婦人科で相談することをおすすめします。
PMS・PMDD以外の病気が隠れていることも
大切なのは、
「月経前に症状がある=PMS」
とは限らないということです。
例えば、
甲状腺疾患
うつ病や不安障害
睡眠障害
慢性的なストレス
などが症状に関係していることもあります。
また、疲労感や頭痛、集中力低下などを強める要因として、
鉄欠乏
貧血
などが背景にあることもあります。
さらに、もともとある気分障害や身体疾患が、月経前に悪化しているだけの場合もあります。
そのため、
「月経前だけでなく普段から症状が続いている」
場合には、別の原因も考える必要があります。
PMSは血液検査で診断できるの?
「ホルモン検査をすればPMSかどうか分かりますか?」
という質問を受けることがあります。
実は、PMSは血液検査だけで診断できる病気ではありません。
現在では、PMSやPMDDは、女性ホルモンの量そのものの異常というよりも、排卵後のエストロゲンやプロゲステロンの自然な変動に対して、脳や体がどのように反応するかが関係していると考えられています。
そのため、
ホルモン値が正常だからPMSではない、とは言えません。
逆に、PMSの症状があっても、血液検査では異常が見つからないことも少なくありません。
診断では、
症状がいつ起こるのか
月経周期と関係しているのか
月経開始後に改善するのか
を確認することが重要になります。
一方で、血液検査が無意味というわけではありません。
実際の診療では、
甲状腺疾患
貧血
鉄欠乏
更年期の変化
など、似た症状を起こす病気が隠れていないか確認するために行うことがあります。
症状日記は診断にも役立つ
PMSやPMDDでは、
少なくとも2周期以上の症状記録が診断の助けになるとされています。
例えば、
気分
睡眠
頭痛
腹痛
食欲
生理開始日
などを簡単に記録してみると、
「本当に月経周期と関連しているのか」
が見えてくることがあります。
自分の体を理解するだけでなく、診断の精度を高める意味でも大切です。
生活習慣でできること
運動
定期的な運動はPMS症状の改善に役立つ可能性があります。
ウォーキング、自転車、ジョギング、ダンスなど、自分が続けやすいものを選ぶことが大切です。
睡眠
睡眠不足は症状を悪化させる可能性があります。
まずは睡眠時間と睡眠の質を整えることが大切です。
食事
特別な「PMS改善食」が確立されているわけではありません。
一方で、
野菜
果物
全粒穀物
魚
ナッツ類
を中心とした食事は健康全般に有益と考えられています。
また、カルシウム補充が症状改善に役立つ可能性も報告されています。
アルコールを控えることは比較的支持されていますが、カフェインについては研究結果が一致しておらず、人によって影響が異なるようです。
ストレス対策
認知行動療法(CBT)は、現在のガイドラインでも推奨されている治療法の一つです。
マインドフルネスやリラクゼーションも、症状との付き合い方を学ぶ助けになることがあります。
治療はあるの?
症状が強い場合には治療選択肢があります。
鎮痛薬
頭痛や月経痛に対して使用されます。
配合ピル(低用量ピル)
有力な治療選択肢の一つです。
特にドロスピレノンを含む製剤では、PMS症状に対する比較的良好なエビデンスがあります。
ピルはホルモン値を「正常化する」というよりも、排卵を抑えることでホルモン変動を小さくし、症状の改善を目指します。
そのため、ホルモン検査が正常な方でも効果が期待できる場合があります。
ただし、気分症状への効果は人によって異なり、すべての方に同じように効くわけではありません。
SSRI(抗うつ薬)
PMDDや精神症状の強いPMSに対しては、SSRIが有効であることが分かっています。
現在の国際的なガイドラインでも推奨されている治療法です。
こんなときは早めに相談を
以下のような場合には、早めの相談をおすすめします。
学校や仕事を休むことがある
家庭生活に支障が出ている
強い抑うつ気分がある
自傷や希死念慮がある
強い不安やパニック症状がある
このような場合には、PMSやPMDDだけでなく、他の精神疾患や身体疾患の評価も必要になることがあります。
まとめ
PMSは決して珍しいものではありません。
しかし、
「生理前だから仕方ない」
と我慢している方も少なくありません。
まずは、
本当に月経周期と関係しているのか
どの症状がつらいのか
日常生活にどの程度影響しているのか
を整理してみることが大切です。
PMS、PMDD、月経困難症、更年期症状は、それぞれ似ている部分もありますが、原因や治療法は異なります。
「昔からだから」
「年齢のせいだから」
と我慢している症状の中にも、改善できるものがあるかもしれません。
実際の診療でも、
「更年期だと思っていた」
「PMSだと思っていた」
という症状の背景に、甲状腺疾患や婦人科疾患、あるいは別の病気が見つかることがあります。
気になる症状が続く場合には、一度立ち止まって整理してみることも大切かもしれません。
当院でも、日本語でゆっくりお話を伺いながら、症状の整理や必要な検査についてご相談いただけます。
コメント